BCP策定推進フォーラム2021開催レポート ~基調講演2~

感染症BCPのポイント
~従業員の1割が欠勤しても事業が継続できる体制整備~
ミネルヴァベリタス株式会社 顧問/信州大学 特任教授 本田茂樹氏

BCPとは、「Business Continuity Plan」(事業継続計画)の略です。BCPは、大地震等の自然災害、感染症の蔓延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン・供給網の途絶、突発的な経営環境の変化など、不測の事態が発生しても、「重要な事業を中断させない」、それでも中断してしまったときは「可能な限り短い時間で復旧させる」という“二段構え”の考え方で、そのための方針、体制、手順などを示した計画のことです。
「BCP」で重要なことは、不足している経営資源を補い、事業をどのように継続していくかです。例えば、従業員が欠けた場合は、どのように応援体制を組んでいくかという代替案を決めておくことが大事になってきます。
「感染症BCP」のポイントは、従業員の健康と命を守ることです。「感染症BCP」を作るときにどんなことに注意すればいいのかをご紹介します。
自然災害と感染症のBCPにおける考え方を比較します。まず「事業継続方針」では、例えば地震に見舞われた場合、大きな揺れが収まった段階から一刻も早く事業を復旧して継続していくことを考えます。しかし、感染症の場合は、事業を継続・復旧することになると、従業員が動き回らざるを得ず、感染が拡大する可能性があります。それを抑えつつ、企業の社会的責任や経営面のことも考えて、総合的に判断しなくてはいけません。
また、「被害の対象」では、自然災害の場合、全ての経営資源が一度にダメになる可能性が大きいですが、感染症の場合は、主として人への健康被害が問題となるため、足りない従業員をどのように手当てしていくのかが非常に重要となります。また、物流が乱れて物資が滞ることもあるので、物資の備蓄も見直すと良いと思います。
さらに、「被害発生と被害制御」では、地震・水害の場合、被害の大きさ・量を変えることができません。ところが、感染症の場合は、的確な感染予防対策を講じることによって、従業員の感染リスクを下げ、感染者数を減らすことが可能です。

「代替要員」の備え

続いて、欠勤者を想定したBCPを考えます。「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく「事業者、職場における新型インフルエンザ等ガイドライン」には、従業員本人の発症や、発症した家族の看病等で、最大で4割の従業員が欠勤したことを仮定して人員計画を立案することが記載されています。また、令和2年12月に厚生労働省が作成した「介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン」では、欠勤率1割の場合は「ほぼ通常」での業務継続が想定されています。
介護施設の場合、業務の内容がある程度均質なため、職員の方が一割いなくなったとしても、お休みした人の業務をそこにいる人の誰でも出来るようになっています。また、最終的に人数がどんどん減ってきた場合には、例えば食事介助、排泄介助といった大事なことだけを行います。
民間企業の場合は、欠勤した従業員の「代替要員」がいるかどうかが重要になってきます。また、欠勤者が増えたときでもやるべき「優先業務」を平常時から絞り込んでおくことが必要です。さらに、「スプリットチーム制」にし、代替要員が限られる重要なメンバーは時間・空間を分けて感染する機会を共有しないことや、「クロストレーニング」により、従業員が複数の重要業務を実施できるようにしておくことが大切です。
欠勤者を代替できる人は、職場に出てくることが出来る人です。代替を可能にするには、教育訓練が必要ですし、定期的な人事異動がポイントになってきます。こうしたことは、いざクラスターが発生してから出来ることではなく、平常時からやっていくことがとても大事になってきます。

平常時から準備を

最後のまとめとして、3つのポイントを説明します。1つ目、「他社で起こったことは自社でも起こる」と思ってください。自然災害にも備えて、少し長めの備蓄を考えられてもいいと思います。2つ目、「認識すれば準備できる」。感染疑い事例や感染者が発生したときの対応は、手順を含めて決め、訓練しておくことが大事です。また、「複合災害」も認識しておく必要があります。3つ目、正しい情報を的確に入手するための「リスクコミュニケーション」が必要です。クラスターが発生してから出来ることには本当に限りがあります。ぜひ、平常時の今から準備をスタートさせていただきたいと思います。平常時から行う準備は決して裏切りません。

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