BCP策定推進フォーラム2019開催レポート ~基調講演1~

アマゾンの強さの秘訣は安全にあり~当事者意識を持って安全の仕組みを作れる人材が成長のカギ~
エバーグローイングパートナーズ株式会社 代表取締役 佐藤 将之氏

社員一人ひとりが経営視点で物事を考える「オーナシップルール」

2000年のアマゾンジャパンの立ち上げから参画しまして、2016年まで携わりました。本日、「アマゾンの強さの秘訣は安全にあり」というテーマでお話させていただきますが、アマゾンと聞いて、安全を思い浮かべる人は少ないでしょう。アマゾンではさまざまな会議が行われましたが、その最初には、セーフティーティップスといって、安全にかかわる話を最初に発表し合います。例えば、米国では倉庫が地方にあり、飛び出す鹿に注意しようなんて話も出てきたものでした。

そもそもアマゾンと聞いて思い浮かぶのは何でしょうか。ほとんどの方は小売でしょう。AWSというクラウド事業も有名です。さらにはメディアもやっており、会員制の動画配信であるアマゾンプライムビデオや、電子書籍のキンドルがあります。そして大きな事業は倉庫・物流業です。何百万という商品の在庫があります。アマゾンが仕入れて販売するだけではなく、メーカーや小売店から商品を預かり、アマゾンが配送する 場合もあります。あと、市場としての価値があります。アマゾンを使って誰でも物の売り買いができます。

各事業に共通するキーワードは成長です。全世界のアマゾンで売上1兆円を超えたのは2006年でした。10年で売上は14倍にまで伸びました。2017年は12兆円、昨年は23兆円まできています。毎年20%以上の成長を繰り返し、3年程度で会社の規模が倍に伸びるペースにまで拡大しています。成長のスピードがすごく早い会社です。日本では2000年に私も参画して立ち上げ、2016年に売上1兆円、今年は1兆8000億円に達するとみられます。

成長のために「グローバルミッション」というものがあります。(1)地球上でもっとも豊富な品揃え(2)地球上でもっともお客様を大事に―です。(1)は顧客が欲しいものを発見でき、購入までできるよう品ぞろえを充実させることです。(2)についてアマゾンは徹底しており、顧客目線で考え、必要な物に投資します。アマゾンのビジネスモデルを創業者のジェフ・ベゾス氏は食事中にナプキンに図を書いてこれを説明しました。品揃えを増やすとこれまでなかったものが買えるようになり、いい評判の口コミが始まります。口コミが増えると、リアル店舗でいうところの来店者であるサイトへのトラフィックが増えます。来店者が増えると、アマゾンへの出店者が増える。これによってまた商品が増える。このサイクルができると成長を続けていきます。そうすると低コスト体質にもなっていくのです。なぜかというと仕入れが増えるとボリュームディスカウントの他、倉庫などの固定費が下がり、そうすると利益が上がる。そして低価格となる。価格が下がると顧客満足度がまた上がります。

顧客満足度の向上のため仕組みを作る。ベゾス氏は仕組みをとにかく重視します。彼の言葉で「善意では十分ではない、仕組み作りが重要だ」というものがあります。会社のためという従業員の気持ちだけでは不十分ということです。かつてトヨタ自動車OBのコンサルタントがアマゾンにいました。倉庫の改善について、掃除しているベゾス氏に「なんで掃除をしているのですか」と問うたそうです。ベゾス氏は「清掃は大事ではないのですか」と聞くと、「掃除をするのではなく、ごみを出さない仕組みを考えることが大事だ」と言われ、気付いたそうです。日本風にいえばおもてなしの気持ちは重要だがそれだけでは不十分。仕組みができて不十分なことがあぶり出され、初めて改善ができる。継続的な改善のうえに社員の善意が生きるのです。

指標であるKPIを多用します。OSHA(米国労働安全衛生局)の基準に基づく指標で管理するのです。安全講習も重視しています。入社日に安全講習を受けないと現場に行けません。最初に学ぶのは「倉庫を走らない」「声がけ」といった安全10カ条です。10カ条は日本全国共通ですが、さらに2つ各センターで足すこともできます。倉庫内での行動について学ぶ安全教室も実施します。カッターの使い方や腰でなくひざを使った荷物の持ち上げ方といったトレーニングをしたうえで現場に行くので、事故率はぐっと下がります。

安全を維持する仕組みとして組織も大事です。倉庫のセンター長と別に、SS(セーフティー&セキュリティ)の担当者がいます。日本本社にもSSがあり、その下に各倉庫のSSがぶら下がる形です。これはどういうことかといいますと、センター長からSSは独立しており、センター長とは協調はしつつも独自で安全に関する取り組みを素早く進めることができるのです。

安全パトロールは365日やります。現場責任者だけでなく3PL(サードパーティーロジスティクス、外部の協力物流業者)も協力して行います。毎日14時ごろにベルを鳴らしながらパトロールします。これにより安全意識は高まります。作業者、現場担当者、マネージャーと話し、レポートを作成し倉庫内で共有します。
安全キャンペーンも定期的に行います。5月後半から9月半ばまでは熱中症対策です。定期的に水や塩飴を摂取します。また、12月は繁忙期となりますが、この時期だけ働く人もいるますので、ロッカーや廊下にも注意書きを貼ります。さらには重大事故発生後に強化期間を設定し、集中的な情報投下と管理強化で強く安全を意識付けるのです。

アマゾンのBCPですが、ビジネス継続で「顧客に迷惑をかけない」ことを念頭に作りました。緊急対応ルールと各部門の責任の明確化の他、顧客支店の例を紹介します。サプライチェーン部門、仕入れ部門、FC、配送部門作る。サプライチェーンと仕入れで入荷日時調整や入荷数調整をします。倉庫とサプライチェーンは出荷計画や倉庫ごとの業量バランスを調整し、顧客にどうすれば早く届くかを考えます。配送部門は配送日時の変更や配送不可地域の特定と周知を行います。
台風は2日前にルート確認と影響が起こる地域を特定。配送予定日を修正しサイト上で告知します。当日は2時間ごとに電話会議し全国の状況確認と告知の補正を行います。1日後に追加措置、3~4日後にポストモーテムという反省会を行い、改善に結び付けるのです。

人材を支えるのはリーダーシップ理念です。14カ条ありますが、特に「オーナーシップ」が大事だと考えます。これは従業員が当事者意識持つよう、経営者の視点で考え、行動することです。こういう意識が身に付けば「それは自分の仕事でない」と言えなくなる。

かつて私の上司は私に当事者意識を持たせるためにやったことがあります。火災事故の新聞記事を持ってきました。そこに書いてあったのは物流センターの火災で3人死亡という記事でした。読んだ後に「自分の倉庫で起きた事故ならどう思うか」と言われました。さらには「死んだ人の家族にどうやって行くんだ」とまで言われ、自分が事故を起こした際の立場を考えるようになりました。この手法は私もそのまま部下への指導に使い、それからみんなの考え方が変わり、訓練にも身が入るようになったと思います。自分たちの会社で起こりうる事故を考え、当事者意識を持つためにやってみてはいかがでしょう。

アマゾンはお客がハッピーになることを第一に考えています。BCPを作り、安全な職場の確保が最高の顧客満足の追求になるという意識を持って取り組んでいるのです。社員と会社の成長が顧客の満足につながるよう、安全の追求は今後も続くでしょう。

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