中小企業のBCP 初めの一歩

 昨今の自然災害の多発によりBCPの必要性は認識されつつあるものの、中小企業においては、多くの企業でBCPの策定が進んでいないのが現状である。中小企業庁が2015年に行ったアンケートによると、15.5%の企業がBCPを「策定済み」と回答している一方で、64.4%の企業が「策定していない」と回答している。そこで、少しでも取り組みを後押しするため、中小企業がBCPの初めの一歩として取り組んでいる代替策の例を紹介する。

対策例1:他社との連携による代替策

株式会社ファイヴエーカンパニー(東京都世田谷区)、ビルメンテナンス業
資本金:1,000万円、従業員数:481名

 同社代表取締役の間宮氏は、約5年前に同業他社との経営勉強会でBCPが企業価値の向上につながることを学び、BCPの必要性を強く自覚する。そこで、手始めに東京と同時被災リスクの低い高知県の勉強会メンバーと相互援助を目的とした協定を締結した。
 「なかよし協定」と名付けたこの協定は、災害時に顧客と従業員を守るため、被災企業に対して必要な物資を提供する。具体的には、食料や飲料水といった生活必需品のほか、事業の継続に欠かせない清掃作業用の回転ブラシや送風機などの資機材、さらには必要に応じて人員の援助も行う。
 「なかよし協定」は、現在、勉強会の全メンバーへ展開することに同意がなされ、21都道府県に所在する31社(2018年3月時点)が災害時には協力して復旧、そして事業継続を行うことが決まった。間宮氏はこのことについて、「幸いこれまでに大きな災害はなく運用に至ったことはないが、全国に仲間がいるという安心感を共有できた。一方で、現場で清掃を行うスタッフ約400名は、平均年齢が68歳と高齢なこともあり、携帯すら持っていない方もいる。彼らの安否確認方法の確立については、今後の大きな課題だ。」と語った。

対策例2:新拠点設立による代替策

株式会社ヒューマンシステム(東京都港区)、ソフトウェア業
資本金:7,000万円、従業員数:120名

 同社では、ビルの屋上に設置されていた貯水槽が壊れ、重要な経営資源であるサーバーが設置されているコンピュータールームに水漏れするというトラブルを経験。一つの拠点に依存することが事業継続上の大きなリスクであることを認識し、島根県松江市にテクニカルセンターを新設することで、リスク分散を実現した。
 同社代表取締役の湯野川氏は、「松江は島根県の東にあり、出雲空港と鳥取県の米子空港の2つの飛行場が使える。また、ソフトビジネスパークと言うIT企業のための産業用地が準備されており、松江はベストな選択肢だった。」と語る。
 新拠点設立後は、開発に伴うシステムとデータをクラウドで管理し、万一の場合でも松江のテクニカルセンターで本社と同一の環境下で作業を継続できるようにした。

対策例3: ネットワークづくりによる代替策

株式会社TLP(旧社名 東京ラインプリンタ印刷株式会社)(東京都板橋区)、印刷業
資本金:1億円、従業員数:255名

 同社では従来から最重視してきた品質管理のISO規格をベースに、同業他社と「業務補完ネットワーク」の構築を進めている。同社取締役営業本部長の荒巻氏は、「大手企業や官公庁は全国に拠点があるので、災害時のリスクを分散できる。これは、BCP対策には極めて有効な仕組みだ。一方、当社の様な中小企業は、同業者の組合など、独自のネットワークを作っていく必要がある。」と語る。
 同社が考える「業務補完ネットワーク」は、被災を免れた企業が被災した企業を助ける相互援助の仕組みである。具体的には、印刷データの共有、印刷用紙の提供、物流の確保などを行う。今年、関西にデータ・プリント・サービス(DPS)工場を竣工したのを機に、ISOなど品質面の担保ができる協力企業を対象に進めているところである。

 支店や支社のない中小企業だからこそ、代替策の検討は重要である。今回紹介した3社のように、まずは具体的な対策を1つ実施してみることで、BCPとして何が不足しているのか、検討すべき課題が見えてくる。この課題を解決し続けるPDCAサイクルがBCP/BCMの基本である。

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