BCP策定推進フォーラム2017 〜危機に強く、常に成長するための法則〜

公益財団法人東京都中小企業振興公社が主催する「BCP策定推進フォーラム2017」が10月30日、都内で開催され、企業・団体等のBCP担当者を中心に約300名が参加した。第1部では、株式会社深松組(宮城県仙台市)代表取締役社長の深松努氏が登壇し、「2011年3月11日金曜日14時46分 東日本大震災〜現場からの証言 復興に向けての課題と提言〜」と題して基調講演を行った。第2部では、東日本大震災、熊本地震を乗り越えた企業や首都直下地震に備えてBCMに取り組んでいる企業を迎えてパネルディスカッションを行った。

第1部 基調講演

第1部で講演した深松組の深松努氏は、東日本大震災発生当時、仙台建設業協会の副会長を務めており、震災発生直後から仙台市各区各課の要請を受けて、被災現場の責任者として緊急対応業務に当たった経験から得た教訓や、東京での大災害時に想定される状況への危機感、災害対策の必要性を訴えた。

深松氏は震災前後からの写真や豊富なエピソードを交えながら、仙台市各地区の被災直後の状況からはじまり、瓦礫撤去、損壊家屋解体、啓開作業、遺体捜索などの緊急対応業務、嵩上げ、宅地移転、住宅再建に至るまでの復興への険しい道のりを詳しく説明。その上で、震災から得られた教訓の一つとして、災害時において公助や物資の供給が期待できない中での「自助・共助」の必要性を指摘した。また、家庭での最低限の備えとして、(1) 家族分の1週間分の食料を確保する、(2) 車の燃料を常に満タンにしておく、(3) 家族との待ち合わせ場所の確認する、の3つを平時から行うべきであることを強調した。
  
講演の終盤には、東日本大震災以降172回の講演を行ってきたことに触れ、「全国、釧路から沖縄まで、何回も行って同じ話をしているが、毎回、みんな同じ反応をする。6年半も経つとみんな忘れてしまう」と時間の経過に伴う防災意識の低下に警鐘を鳴らしつつ、「皆さんがそれぞれの地区で、それぞれの地域を守れば、この日本は絶対に大丈夫、必ず復興できる」と力強く語った。

第2部 取組事例紹介/パネルディスカッション

第2部では、パネリストとして、北良株式会社(岩手県北上市)代表取締役社長の笠井健氏、株式会社ディスコ(東京都大田区)サポート本部総務部BCM推進チームの猪瀬順平氏、株式会社生出(東京都西多摩郡)代表取締役社長の生出治氏、銀座パートナーズ法律事務所(東京都中央区)弁護士の岡本正氏が登壇し、取組事例紹介とパネルディスカッションを行った。ファシリテーターは株式会社新建新聞社(長野県長野市)取締役・リスク対策.com主筆の中澤幸介氏が務めた。

産業・医療・家庭分野でガス事業を展開する北良の笠井氏は、「災害から学ぶ実践型BCP」と題し、同社のBCP・災害対策の取り組みを語った。東日本大震災では、早い段階から2008年の岩手・宮城内陸地震以来、通常の在庫とは別に備蓄しておいた酸素ボンベを、顧客の安否確認をしながら配って回ることができたことを紹介。
また、県庁、警察、ラジオ局などとの平時の意思疎通によって、迅速な電力供給と事業再開、緊急車両登録、情報発信が可能となったことや、車両の燃料種を平時から分散させていたことで、燃料不足のなかで継続性を確保できたことを語った。

精密加工装置の製造・販売などを手がけるディスコの猪瀬氏は、BCMを会社として維持し続ける主要な仕組みとして、最も重要なことは「経営層のBCMへの参画」であると指摘。具体的な取り組みとして、経営層が参加する「BCMコミッティ」や、社内対象組織による「BCM毎月活動」などを紹介した。
また、熊本地震発生当時の対応では、熊本市内で営業活動とカスタマーサービスを展開する九州支店の現地従業員とその家族へのサポートや、現地に入った支援スタッフへの後方支援の手配を行い、支店の事業継続と顧客の早期復旧に尽力したことなどを語った。

包装材・緩衝材など軟質プラスチック製品の製造と包装設計・包装技術サービスを展開する生出の生出氏は、現在進めているBCPの計画全体の見直しについて紹介した。
見直しの目的としては、(1) 地震、パンデミックなどの災害だけでなく、事業継続を脅かす様々な脅威に対応できる内容にすること、(2) BCPを策定する過程を改めて学びなおし、訓練や演習を行うことで、本当に災害時に柔軟に臨機応変に対応できる組織を作ること、(3) 取り組みを通じて幹部社員、各現場の責任者を育成すること、の3点を挙げた。

コメンテーターとして登壇した銀座パートナーズ法律事務所の岡本氏は、「BCPをどうやって浸透させるか、BCPの本質とは」と問いかけた上で、東日本大震災後に起こった宮城県山元町の常盤山元自動車学校の訴訟事例を解説。
東日本大震災以降の自然災害に伴う数々の訴訟の明暗を分けたポイントとして「安全配慮義務」が問われたことを指摘。企業が同義務を徹底するためには「災害後にあってもいかに情報収集できるか。そして、その情報を適切な場所に、自分が無理なら、上に伝えられるか」が重要であると語った。


第2部後半のパネルディスカッションでは、ファシリテーターの中澤氏が、BCP策定による「負担とメリット」に関してパネリストに質問。

北良の笠井氏は、大規模な企業でなくても「知恵や工夫」次第で費用を抑えた様々な取り組みが可能と説明。全員が防災担当となって行う「防災経営」など、同社独自の取り組みの結果、事業が差別化され、顧客である医療施設の患者からサービスを支持される好循環が生まれていることを紹介した。

生出の生出氏はBCPのメリットについて「お客様から評価されることで、従来の取引のさらなる充実に役に立つ」と語り、「BCPを日常のマネジメントシステムの中に組み込む」ことで「有事の対応であるという役割に終わらせるのではなく、経営上の効果につながる手段として活用」することを提案した。

ディスコの猪瀬氏は、同社が展開する中小企業のBCP策定支援の取り組み方について「経営者の方の思いや考えも会社ごとでまったく違う。当初、私どもが用意していた構築ストーリーの雛形ではなくて、それぞれの会社ごとにカスタマイズするやり方で支援を行っている」と説明した。

社員一人一人が災害に備えていくためにポイントとなる「当事者意識」を高める方法については、銀座パートナーズ法律事務所の岡本氏は、BCPによる被災者の生活再建ニーズへの対応を挙げ、「被災するということを一個人目線で、組織の人間を守る為、予防策として福利厚生的にしっかりと教える、知識を与えておくということは、組織の環境として非常に良くなっていくのではないか」と提案した。

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