株式会社スマートワークス

代表取締役 千田 彰 氏
専務取締役 本多 佳苗 氏

左から千田代表取締役、本多専務取締役

Q.会社の概要を教えてください。

当社の設立前ですが、私はリクルートで二十数年、採用や育成の仕事をしており、その中でアメリカ人経営コンサルタントのスティーブン・リチャーズ・コヴィー博士による著作『7つの習慣』の研修を事業化するプロジェクトを手がけました。その後、この研修プログラムを提供する会社の事業強化の依頼を受け、同社に転職。そこでの役割を終えた後、講師養成などの責任者を務めていた本多(佳苗氏・専務取締役)を共同経営者として、この会社を立ち上げました。
私が会社を通じてやりたいことは「日本人の生産性を世界一にする」ことです。日本は、ものづくりは世界一でしたが、生産性は35番前後。それをリクルート時代から問題提起してきましたが、自分の事業として追究したいと思って創業しました。
当社では、海外企業5社と提携して人材開発のための研修プログラムを中心に提供しています。アメリカをはじめ、世界35カ国で導入されるなど、グローバルでレベルの高いコースです。日本では、業種や規模を問わず、様々な企業様に導入いただいており、ここ5年ほどは国内の原子力発電関係の研修プログラムも担当させていただいています。研修の8〜9割は共通の教材で成り立ちますが、残りは講師の属人的なノウハウが不可欠となり、お客様との関係性にも合わせて対応は変化します。

オフィス内の様子

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか。

新型コロナ感染拡大による事業環境の変化がきっかけです。コロナ以前の当社の研修プログラムは、営業を含めてほぼ100%対面による提供でした。それがコロナ後には、オンラインが95%になりました。お客様が在宅勤務を徹底されていますので、その時点で、対面での研修は不可能です。この変化は、当社も大変でしたが、お客様も大変だったと思います。“オンライン研修”というのは、通信を使って提供するだけと思われがちですが、提供する側からすると、プログラムの設計を全部作り直さなければいけません。というのも、受講者の疲労度、特に脳の疲労度が、対面の時とは全然違います。そこをご理解いただくのに初年度は苦労しました。教材や進行の仕方を変え、オンラインでの手際よさも必要でした。
さらに、当社の研修プログラムは、Eラーニングによる学習と異なり、オンラインでも講師がライブで実施し、双方向でのコミュニケーションが必要です。講師が感染した場合、代理の者では埋められないことから、属人情報への対策を講じなければならないと感じるようになりました。
そんな中で、東京都中小企業振興公社の職員の方からBCPについての情報をいただき、講師の属人的情報の課題と非常に関係性が強いことに気がつき、BCP策定に取り組むことを決めました。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

当社のBCPは感染症を想定しています。基本方針は2つ。1つ目は「社員の安全を守ること」。2つ目は「お客様の人材教育を通じてお客様の成長に貢献すること」であり、それには予定通りに研修を納品することが不可欠です。講師の感染を防ぐことが第一歩ですが、万が一、感染したときに備えなければなりません。
感染症対策としては、手指の消毒、手洗い・うがい、オンラインでのコミュニケーションを推進しています。一方、講師の属人的情報への対策としては、頭の中を「見える化」、「使える化」すべく、ITの導入を進めています。ただ、講師のノウハウの中から取り上げるべき部分を明確にすることは簡単ではなく、またITも新しい技術が次々に出て、アップデートが進みますので、これを使いこなすことも簡単ではないと思っています。

手指の消毒による感染症対策

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

BCP策定に取り組んでみると、やるべきことがたくさん出てきます。そこから、当社が最優先で取り組むことを絞り込む、“ウエイトの置き方”に迷いました。その作業を通じて、優先順位を決めるにはBCPで掲げた基本方針が重要であり、絞り込むための基準値になるということが分かりました。

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

BCP策定以前は、目の前の仕事に追われて、会社の事業を長期的・本質的に考えてみることがなかなか出来ませんでした。そういう意味で、会社の事業の重要な部分に気づかされた出来事でした。

Q.公社の支援に対するご感想は?

とても感謝しています。ハードルが非常に低く、利用しやすいと感じました。コンサルティングも手ごろな料金ですし、内容も非常に分かりやすく丁寧に説明してくださいました。コンサルティングでは、「こんな事例はどうですか」「こんな観点ではどうですか」と突っ込んで質問していただき、掘り下げられたこともよかったと思いました。また、文書を作成する中で、例えば「連絡先一覧」を作ったことで、それまで知らなかった会社付近の感染症の緊急病院が分かりました。緊急時にどうすればいいのかを、社内で共有しているのと、していないのとでは全然違うと思いました。

Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

当社の活動の中核部分である講師の属人的情報の課題は、事業革新に繋がる最重要テーマです。今後、まずは属人的なノウハウや情報を、ITシステムの中でどのように取り出せるようにし、代替わりさせていくのか。ここが一番のテーマなので、エネルギーを割いて決めていきたいです。ここを決めると、いろんなことが動かしやすいと思っています。
属人化への対策が実現すれば、デリバリーのノウハウを持っている機関との産学連携なども可能だと思っています。双方向でのコミュニケーションが必要なところが非常に難しいのですが、例えばAIを駆使することで、属人的な部分をコンテンツとして取り出して学習に活かせると考えています。