【感染症対策BCPの好事例紹介】三和建装株式会社 代表取締役社長 中 衆司 氏

Q.会社の概要を教えてください。

中氏: 三和建装は1978年に塗装業者として創業し、約45年間建設業界に携わっている事業者です。現在は建設業のなかでも既存マンションや、公共施設の大規模修繕工事を中心に行っています。
近年は、国土交通省が推進する「長期優良住宅化リフォーム推進事業」にも積極的に取り組み、建物の改修時に屋上に断熱防水施工を施すなど、リフォーム事業にも注力しています。

左から妹尾執行役員工事部長、中代表取締役

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

中氏: 策定のきっかけは、1995年に発生した阪神淡路大震災までさかのぼります。当時、関西の大学に通っていた私は、地震発生時に大きな揺れの恐怖と、インフラ停止の大変さを身を以て感じました。そして2011年の東日本大震災では、実際に現場の職人さんたちが危険な目に遭うなど、事業にも大きな影響が出てしまったんです。これらの経験を通して、より災害に対する危機感が強まり、2014年に震災対策向けのBCPを策定しました。
感染症対策用BCPは、2020年初頭に自社のマニュアルを見直す機会があり、同時期に新型コロナウイルスの感染が拡大していたため、新たに追加した形になります。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

妹尾氏: 私たちは「お客さまの安心」を第一に工事を進めなければならないので、工事現場における感染症予防関連の項目は慎重に策定しました。作業員全員の検温・マスクの着用はもちろん、エレベーターの使用制限や、相乗りで現場に行く際は1台に乗る人数を減らすなど、感染リスクを下げる業務形態を導入しています。ただ、国内の感染状況は激しく変化するので、今もその都度改善点を見つけて、改正を行っていますね。
中氏: そのほか、会社の経営に大きな影響がある工事部の業務を“重要業務”に設定しました。コロナ禍では現場ごとにクライアントの要望がまったく異なるので、マニュアルはあくまで自社向けの指針として参考にしつつ、先方の要望を優先して対応します。
とくにマンションの改修工事中は、居住エリアに多くの職人さんが出入りするので、感染症への懸念が強かった第一波、第二波の頃は作業時間を短縮したり、工事を休止するケースもありました。その一方で作業日が減ると職人さんの収入も減ってしまうため、現場の人員調整を行い、職人さんの作業日を確保します。たとえば、土曜日の作業がなくなってしまった現場に行く予定だった職人さんには、同日に稼働している別の現場に行ってもらう、という調整も増えましたね。

工事現場にも手指消毒用アルコールと非接触体温計を設置している

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

中氏: 当社の業務は、本社と現場のダブルスタンダードで実施しなければならず、その調整が大変でした。具体的には、緊急事態宣言下でも現場で働く社員は現場に行かなければならないのに、本社勤務の社員は一部リモートワークで仕事をする、という働き方の違いが生じます。そのため、現場から不満が出ないように、車出勤を許可するなど、さまざまな角度で“不公平感”が生じないように制度設計するのが難しかったです。各部署の意向を汲むため、感染症BCPは総務人事部の担当者、現場は工事部の妹尾に協力してもらいながら策定しました。ただ、過去に震災対策のBCPを策定した経験があったので、比較的スムーズに策定できた印象です。

Q.現状のコロナ禍において、計画に基づき具体的に行っていることは何ですか?

中氏: オフィス内には二酸化炭素濃度測定器を設置し、現場では換気・消毒の徹底や密回避など、基本的な感染症予防策を行っています。また、以前は電車移動が多かった営業担当者には社用車の利用を推奨しています。
そして今後は、東京に近い場所に設置していた、他県の営業所を移転する予定です。各支店が東京から離れていれば、都内で感染が広がったとしても、各支店の担当エリアの業務には影響が出にくいはず。有事の際に本社機能を移管し、事業を継続することが狙いです。

本社内に設置された二酸化炭素濃度測定器。二酸化炭素の濃度が濃くなるとアラートが鳴る

感染症以外でも、BCPの考えを社内で共有するため、防災訓練や、火災発生時の防火訓練、AEDの使用方法の講習を定期的に実施しています。また、策定したBCPのマニュアルは社用のイントラネットにアップして、マニュアルを基に不定期で小テストも行っているんです。当社では、訓練や小テストを通して、社員一人ひとりが災害を“我が事”として捉えられるように工夫していますね。今では、台風などの予測できる災害の発生時には、社員が自ら対策をしてくれています。

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

中氏: マンションの改修工事は、建物の管理組合がコンペを行い、受注する事業者を決めます。コンペに参加する事業者は、自社の特徴についてプレゼンテーションを行い、管理組合員が投票で事業者を選ぶのが一般的。当社では、そこで配布する提案資料に自社のBCPに関する内容も記載してあります。我々のような中小企業でBCPを策定している事業者は珍しく、他社との差別化にもつながっている印象です。得票にどれだけ影響があるかは未知数ですが、プレゼンの際には私たちの取り組みに賛同する声もいただいていますね。

Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

中氏: 私たちの仕事は、現場で事故が起きると事業に大きな損失が出てしまいます。そうならないためにも、現場での作業はもちろん、あらゆるリスクを事前に想定して対策しなければなりません。自然災害はもちろん、今後新たな感染症の感染が拡大する可能性も、ゼロではない。これからも会社と雇用を守るため、“攻めのBCP”を意識しながら、内容の改定を重ねていきたいです。