【感染症対策BCPの好事例紹介】
三協運輸株式会社 代表取締役社長 南雲 謙太郎 氏

Q.会社の概要を教えてください。

当社は、創業大正4年(1915年)で、今年107年目を迎えた運送事業者です。品川区に本社を構え、埼玉県と千葉県にそれぞれ営業所を置いています。事業内容は自動車用・二輪自動車用タイヤ、精密機器や医療機器などを運ぶ「一般貨物自動車運送事業」と、荷主が所有する倉庫内で商品を入出庫・保管・流通加工等を行う「倉庫業務請負」をメインで行っています。

南雲代表取締役社長

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

最初にBCPを意識したのは、主要取引先の大手タイヤメーカーの方とお話したときでした。そのメーカーは、阪神淡路大震災で被災した経験があり、当時の被災状況や記憶をその後の経営にしっかり活かしていたのが印象的でした。そして私たちも、2011年に東日本大震災に見舞われ、台風や水害など、さまざまなリスクに晒されるようになり、“多角的に備える必要性”を感じていましたが、日々の業務の忙しさから、策定に取りかかれずにいました。
しかし、約2年前に発生したパンデミックによって、当社にとってのBCPの重要度がさらに増したのです。2020年は、海外の工場で作られた部品の輸入が止まってしまったり、さまざまな展示会やイベントが中止になって、展示ブースの機材運送の受注が減るなど、経営に大きな打撃がありました。こうした背景から、本腰を入れて策定をスタートしたのがきっかけです。
また、総務課長が高い危機意識を持って「BCPを策定するなら今ですよ!」と背中を押してくれたのも大きかったですね。今回のメインは感染症対策ですが、いい機会だったので、地震や風水害発生時の対応事項も含めた内容で作成しました。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

当社のBCPでは、災害発生時の復旧業務の優先度を「1.倉庫業務」「2.配送業務」「3.総務部業務」の順に設定しています。
もちろん配送も重要な業務ですが、倉庫からの出荷は当社が配送の起点になる業務なので、最重要事項にしました。
現在、倉庫では最大で20名弱が倉庫業務を行っています。そのうち2〜3名の現場作業員が、感染症に罹患したケースを想定し、対応手順を定めました。
まず、濃厚接触者にあたらない者だけで業務ができるか否かを確認。倉庫作業の継続可能な人数をおよそ15人として、実施可能ならば、その人数で作業を続けます。不可能な場合はほかの営業所から応援を呼んだり、派遣社員を雇うなどして対応する。
それでも実行不可能なときは、荷主や販売元に連絡をして出荷量・締め時間の調整、出荷停止の相談をする……という流れを策定しました。
ただ、現在流行している新型コロナウイルスのオミクロン株は感染力が強いので、一部“感染者が出ることを想定した内容”に改めてあります。改定の際に行ったのは、社員一人ひとりが可能な業務の可視化。当社の業務を細かく分類して「◯◯さんは、倉庫・配送の作業ができる」という形で、リストアップしました。いわゆる「多能工リスト」の作成ですね。
そして、ほかの営業所内で◯◯さんと同じ業務ができる人員を指名しておき、◯◯さんに何かあったときに、すぐ応援を呼べる体制を整えました。私たちはこの仕組みを「オミクロン型」と呼んでいます。

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

当初は書籍などを参考にしながら、自社のみでのBCPの策定を試みましたが、感染症など専門性が高い分野はわからない部分が多く、半年近く苦戦しました。おそらく、東京都中小企業振興公社のサポートがなければ、策定はできなかったですね。

Q.現状のコロナ禍において、計画に基づき具体的に行っていることは何ですか?

普段は、基本的な感染症予防策を講じています。4階建ての倉庫は、広くて密になりにくい環境ですが、1階はシャッターを開けて換気を心がけています。また、倉庫や事務所の入口と出口を分けて、作業員同士の接触や飛沫感染のリスクを下げました。1階よりも空気が滞留しがちな2階は、消毒を徹底。関連施設のドアも“ひじ”で押し開けられるように調整してあります。

オフィスの入口には消毒液と非接触検温器を設置

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

効果を感じるのは、経営層だけでなく、社員一人ひとりと危機意識を共有できた点ですね。小さな会社なので社員が感染症でバタバタと倒れてしまうと、経営に大きな影響を及ぼす、という危機感を高めることができました。もちろん多少の温度差はありますが、それぞれが「社内でクラスターを発生させない」という強い意識を持ってくれているおかげで、今のところBCPは発動していません。

Q.公社の支援に対するご感想は?

先ほども触れましたが、自社のみでの策定は不可能でした。BCP策定を目指してから、セミナーもいくつか参加したのですが、公社のセミナーは内容も具体的で、コンサルタントの派遣までの流れもスムーズ。説明も丁寧でわかりやすく、当社のBCPが完成するまでの数カ月は担当の方が進捗を確認してくれるので、モチベーションも維持できました。私たちの場合は、公社にお願いして本当によかったですね。

Q.BCPを今後会社の企業経営にどう生かしたいですか?

三協運輸株式会社を支える社員のみなさんと南雲氏

多様なリスクが潜んでいる現代は、BCPを一度策定したら終わりではない、と強く感じています。新たに「オミクロン型」を策定したように、今後も時節に合わせてアップデートしていく必要がある。その点では当社のBCP担当者が、他社の事例などの情報に、いつもアンテナを張ってくれているので心強いです。
これからも社員たちと密に連携をとりながら、事業継続計画のためのPDCAサイクルを回していくのが目標であり、課題ですね。