【感染症対策BCPの好事例紹介】
株式会社林パッキング工業
代表取締役社長 増田 誠 氏

Q.会社の概要を教えてください。

当社は、精密ゴムパッキンの製造・販売を行っているゴム製品メーカーです。本社を東京、検査場を埼玉、2つの生産工場を栃木に構えています。殺虫剤や制汗剤などのエアゾール、消毒液やシャンプー・リンスなどのポンプ、文房具や化粧品などの生活雑貨から、家電、重機、産業機材、自動車部品などの工業用品まで、取り扱うゴム製品は多岐にわたります。

増田代表取締役

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

4年くらい前から、発注元の大手メーカーによる工場監査の際に「御社はBCPを策定していますか」という質問をされていました。策定していなくても減点になったり、改善要項に入ったりはしませんでしたが、事前に準備しておくことの必要性を感じ、まずは災害用のBCPを策定したのです。
その後、新型コロナのパンデミックが起きました。あらかじめ備えておく重要性をすでに学んでいたので、感染症に対するBCPも作ろうと思い、今回策定しました。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

従業員あっての会社ですから、「従業員と、それを支える家族の健康を守る」という方針を大前提としました。
そのうえで、緊急事態宣言が発令された際に事業を継続させるための場所や人の代替プラン、連絡経路などをマニュアル化しました。たとえば、宣言が出て東京都への往来に規制がかかった場合は、埼玉県の社長宅を臨時本社とし、製品の出荷場所も埼玉の検査場にするなどです。緊急時でも可能な範囲で対応できるように、各工場、各部署の動き方を決めました。
平時では、「HPK新型コロナ対策ガイドライン」を作り、ガイドラインに則って感染拡大防止に努めています。

社内には「HPK新型コロナ対策ガイドライン」や注意喚起の文書が掲示されている

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

内容のブラッシュアップが大変でした。災害用のBCPは多くの企業が策定しているので参考になる資料も豊富で、「この対策は当社でも取り入れよう」と真似をしやすかったのですが、感染症のBCPはまだ策定事例が少なく、調べてもなかなか情報を入手できなかったのです。感染症対策のBCPを策定する意義などは目にするのですが、具体的な取り組みについては本当に数が少なくて……。参考となる資料が多ければ「もう少し内容を付け加えられたのかも……」と思うので、そこが少し心残りですね。

Q.現状のコロナ禍において、計画に基づき具体的に行っていることは何ですか?

製造業は出社を止められない業種です。当初は「検査は在宅勤務でも可能なのでは」という意見もありました。ですが、自宅ではホコリが舞ったり、ペットを飼っている家庭では毛が飛んでしまったりする。そうした状況で検査をしていては、高い品質を維持できません。やはり当社の事業の大半はリモートワークが難しく、どうしても人の密集が避けられない分、工場内での対策に力を注いでいます。
主に行っているのは、出勤前の検温、消毒の徹底、アクリル板の設置、30分ごとの定期的な換気、CO2測定器による密集回避などです。CO2測定器は、人が集まる工程すべてに配置しています。今後はより感染リスクを下げるべく、昼休憩の2交代制の導入も検討中です。
また、全国的に家庭内感染が増加している背景も踏まえ、従業員のご家族宛に「新型コロナ感染予防のお願い」という注意喚起の書面を配布しました。

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

高い意識で感染症対策を継続できているのは、BCPを策定したからこそだと思っています。
じつは当社でも、先日感染者が出てしまったのですが、感染時の対応を決めていましたし、全社員分の抗体検査キットも用意がありました。感染した社員にはすぐに病院に行ってもらい、他の社員も抗体検査をして陰性を確かめてから業務にあたってもらえたので、BCP発令に至らなかったのです。このように落ち着いて対応できたのも、BCPを策定しておいた効果だと思います。

万が一に備え、全社員分の抗体検査キットがストックされている

Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

感染症のBCPを策定して、事業継続を阻む危険性はあらゆるところに潜んでいると再認識できました。
たとえば、社内のPCがウイルスに感染して使えなくなった、事業の中核を担っていた人物が引き継ぎもなく突然退社したなども、いつ起こるか分からないリスクとして考えられると分かりました。そのため、PCのウイルス対策を強化するために「IT管理室」という部署を設けたり、主要社員がいなくなっても業務が回るように多能工化や情報の共有を進めたりしています。
こうした“もしも”の事態を想定し、シミュレーションだけで終わらせるのではなく、実際に対応できるように備えておく必要性を強く感じました。今後もいろいろなリスクが出てくると思いますが、その度に対策を考えていきたいと思います。