株式会社ミューテック35 代表取締役 谷口 栄美子氏

谷口代表取締役

Q. 会社の概要を教えてください。

当社の設立は1990年です。当初は新宿の西口に事務所を構え、電光掲示板の設計から施工までという、今とは異なる事業から起業しました。大手電機メーカーの一次下請けに関わっていた父が、電光掲示板に関する業務を請け負って独立したのが始まりですが、受注先が電光掲示板の仕事を落札できなくなったため、購入したばかりの工場に備わっていたプレス機を活かして、プレス事業を始めました。翌年には精密板金の設備を導入し、板金事業を開始しました。それ以来、受注も続き、2007年には私と弟が事業承継したのですが、その翌年、リーマンショックによって赤字に転じました。
これを機に、経営理念を作り、自社の強みをきちんと整理し、「試作屋」という看板も掲げて展示会に出展するという新たな営業を開始しました。東日本大震災では、プレス事業の中心が自動車関係だったことから、サプライチェーンの問題でまったく納品できない状態が6ヶ月続きましたが、何とか切り抜けながら、速さと正確さが求められる試作の仕事を続けてきました。やがて、お客様から機械加工を求める声をいただき、今では機械加工にも対応できる会社になっています。社員はパート社員も含めて18名。30代、40代が多い会社です。

Q. なぜBCPに取り組もうと思ったのですか。

「試作・ものづくりの元気で頼れるパートナーになろう」というのが当社のモットーです。頼れるパートナーになるには、非常時の対応をきちんと明文化し、お客様に伝えておかなければいけないと思い、BCPを策定することになりました。今回の新型コロナウイルス感染症拡大によって社外での活動が制約されたことで、考える時間が取れ、事業を見直すことができました。SDGs、人事考課、ホームページのリニューアルなども行いました。ホームページは、製造業に特化してウェブサイトを作っているとても優秀な女性のデザイナーに、彼女の製造業への思いを込めて作っていただいたものです。

Q. 策定したBCPの概要を教えてください。

今回のBCPは、関係の担当者が話し合って作りました。当社の建物は、かなりの高台に立地しており、水害は問題ないことから、事象は地震にしぼり、震度5強程度を想定しています。立川断層の地震では震度7になるそうですが、そこまでの想定は難しいと判断しました。本格的なものづくり再開については、電力を含め、インフラが動いてから3日〜10日のイメージです。
BCPの基本方針は、当社の経営理念を反映させました。お客様に迷惑をかけないこと、従業員の人たちの雇用を守ること、近隣の人や公共団体との連携を図ること、の3つです。3つの中の1つでも悪ければ、絶対にうまくいきません。そこはとても大事だと思いました。
そのほか、今回のBCPでは感染症を対象としませんでしたが、新型コロナウイルス感染症対策については、出入りの際の手指の消毒と検温の徹底、加湿器付き空気清浄機の利用など、しっかり意識して取り組むようにしています。リモートワークについては、大きな機械を扱う現場ですので対応できませんが、CADと営業の担当者にはなるべく在宅での仕事をお願いしています。

社屋外観

Q. BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

当社では2018年から毎月1回、ファシリテーターの方にご協力いただいて、1時間の勉強会をやっています。大きなテーマを決めて、各グループの中で話し合い、意見を出し、発表するものですが、2月の勉強会ではBCPについて議論しました。BCPを作っても、社員の皆さんにあまり浸透しないのではないかと思っていたことと、被災時に想定される状況が部署ごとに異なり、私の想像もつかないことになるだろうと思っていたので、その辺を皆さんから挙げていただいたのです。
勉強会での議論は、いつになく白熱しました。地震が起こったときに問題になることをたくさん書き出してもらいました。例えば、工場の広さの制約もあって、どうしても物を上の方に置いてしまうことがあります。そこをどう改善していくのか、といった日常の課題です。こうした意見を反映させ、BCPをバージョンアップしていく予定です。

Q. 日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

策定したばかりですが、安心感は得られたと思います。前述の勉強会では、「連絡はどうすればいいのか」、「どこが避難所なのか」といった、今まで伝えていたつもりだったことも挙げられました。こちらから一方的に言ったことが如何に伝わっていないかが分かり、そういう意味では、私自身にもすごく効果がありました。また、社員の皆さんも、BCPを意識し始めるといろんなことがピンとくるようで、率先して動いてくれていますので、私としては安心です。みんなが素直になれる環境ができれば、何でもうまくいくような気がします。

Q. 公社の支援に対するご感想は?

中小企業ですと、知識のないテーマのためにお金を払ってセミナーを聞きに行ったりすることはなかなかできないと思いますが、そこを、広く門戸を開いて迎えてくださるので有り難く思っています。また、個別指導がなければBCPは策定できなかったと思います。フォーマットがあり、ポイントを対面で教えていただいたことで、イメージを掴んで作ることができたので助かりました。

Q. BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

当社のBCP策定のきっかけは、「頼れるパートナー」になることでしたので、“BCPを策定しました”と、ホームページなどできちんと伝えられたらいいと思います。同時に、社員の皆さんの家族にも安全してもらえるようになればいいと思います。今後、採用にも生かされていくと思います。
それから、協力会社を増やしたいと考えています。当社が被災した場合に、お客様にご迷惑をかけるわけにはいかないので、同じような品質と納期に対応できる同業者を探し、お客様のリスクに対応することに取り組まなければいけないと思っています。そうすることで、各方面で良い関係を築いていけるのではないかと思います。

ミューテック35社員の皆様