シノハラ防災株式会社 代表取締役専務 篠原 徹 氏

Q.会社の概要を教えてください。

当社は昭和23年に創業し、消防用設備の保守点検、施工を行っています。おかげさまで一昨年に創業70周年を迎えることができました。法令に基づいて設置された設備を安全適正に使えるよう維持管理する定期点検業務を中心に、顧客は物件数で300件以上。多くの設備に長年携わらせていただきながら、お客様の安心につながるよう取り組んでいます。また、法定点検とともに不良箇所を検出した際の改修工事や内装改修時の設備施工も行っています。社員は役員5名を含む18名。売上高は3億8000万円(2019年5月期)。売り上げの比率は、法定点検で4割弱、工事で3割、消火器などの物品販売で3割となっています。

Q.なぜBCPに取り組もうと思ったのですか。

以前からBCPの必要性は感じながら、どうしても震災がメインという印象があり、大規模な被災を想定することが難しく、なかなか現実にならずにいました。そこに昨秋の台風で社員が通勤できなくなる事例が発生し、それをきっかけに取り組むことに決めました。
また、今回の東京都中小企業振興公社の支援事業がちょうど風水害を対象としたBCP対策だったため、そこから始めてみようということになりました。まずは一時的な事業停止への対策を立て、将来的には様々な状況に応じて枝分かれさせ、厚くしていく考えです。その意味で、風水害対策は最初のステップとしてよかったと思います。

Q.策定したBCPの概要を教えてください。

当社の携わる消防用設備は、災害時にも機能しないといけません。災害後の設備停止はなるべく短くしなければいけない。お客様としては災害後も設備が安全に動くかを確認したいという要望があります。それに対して点検を行い、状況をお伝えすることが我々の仕事です。
発災後は、まずお客様の状況確認をメールや電話で行います。定期点検は2カ月ほど先まで予定が決まっているので、まずは予定のお客様への対応、いわゆる平常業務を第一優先にしようと今回のBCPで定めました。発災後も点検を受けられるお客様は大きな被害を受けずに済んでいることが考えられます。直近に予定されたお客様から順に、「設備の安否確認」を行います。建物が倒壊しているような場合は平常の点検作業自体ができません。当社も被災している場合には対応できる人数が限られてきますので、その中で、まずは平常の定期点検に対応できる体制をつくることを今回のBCPの目標としました。
以前の認識では、BCPというと被災後の緊急対応のことだと思っていましたが、今回のBCP策定に取り組むなかで、当社としての通常業務にいかに早く復帰できるかという視点に変わりました。大きな被害を受けられたお客様からの連絡は当然想定されますので、可能な範囲で対応することになります。一方、被災していないお客様の定期点検を行えなければ、それが不安を与えることになりますので、まずは平常の点検業務を優先するということです。
当社の経営資源として守るべきは人です。発災後は、従業員と協力業者の安否確認を最優先します。従業員は基本的に日中でもほとんど現場に出払っていますので、各自の携帯電話、メール、SNSを使って、社員の家族も含めて安否確認をとるというかたちをとっています。
そのほか、当社は神田の本社とともに武蔵野営業所を開設しています。現在は常駐社員がいませんが、本社が被災する可能性に備えた拠点として今回のBCPにも位置付けています。

Q.BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

結論として策定されたBCPが、当初イメージしていたものと違ってきたことです。BCPとは緊急対応に労力を費やすためのものではなく、事業を継続していくためのものだということを、これから浸透させていかなければなりません。BCPを定着させ、運用していくことが一番の課題だと思います。今後、訓練の中で徐々に浸透させていきたいと思っています。訓練は年度末の繁忙期を終えた5月頃を予定しています。

事務所内

Q.日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

これからだと思っています。BCP策定とは、災害時という限られた状況で、いかに的確に経営資源を投下できるかということだと思います。防災に携わる会社として、BCPを策定することで、災害時に何事もなかったかのように事業を継続できれば一番でしょう。ゆくゆくは中小企業庁の認定も取りながら取引先などに周知していきたいと思っています。

Q.公社の支援に対するご感想は?

最初の集合セミナーと、コンサルタントの方にご来社いただいての対面作業という流れでしたが、書類やマニュアルの作成手順など的確にアドバイスいただいたので、迷いもストレスもありませんでした。また、風水害という、わりと身近な災害を想定したものだったので、イメージもしやすかったと思っています。BCP策定後に取り組むことができる認定制度などの情報も合わせてご案内いただければ、さらにありがたいと思います。

Q.BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

BCPの第一意義に従業員の安全確保を置くことで、迷いのない経営判断が可能な体制になると思います。その上で、安全が確保された従業員が事業再開に向けてどう動くかというベクトルを合わせていくことができます。人数の少ない組織ですので、平時においても一人が休めば業務に影響が出ます。そうした状況においても、BCPの考え方は有効に活用できると思います。もちろん、あまり業務の効率性ばかりを追求すると、お客様の取捨選択になってしまうので、拡大解釈による弊害が出てきてしまいます。その意味で、今回の策定によって、BCP発令のタイミングの迷いを払拭できます。それが経営面でのプラスになり、ひいてはお客様への安心と信頼の補強になると思います。

神田本社入り口、消火器の変遷の展示をしている