日新電子工業株式会社 取締役 総務経理部門担当 総務経理部長 向井寿夫氏

Q,会社の概要を教えてください。

当社は1944年4月に設立された、検査機器の専門メーカーです。金属検出機やX線検査装置などの非破壊検査装置の製造、販売、メンテナンスを行っています。これら品質管理機器を通じ、食品・医療・工業・被服・官庁等様々な分野で、お客様の安心・安全を守る企業として事業展開しています。例えば金属検出機は、食品の生産工程で、流れてきたパッケージを空けずに金属などの異物混入を検出する事ができますし、X線検査装置では非金属を検出する事も可能です。当社では企業理念として「三方良し」を掲げ、「自分良し、相手良し、第三者良し」を旨とし、世の中の役に立てる企業として、今後も社会とお客様にお喜びいただき、共に成長していきたいと考えています。

金属検出機とは、磁気現象を応用し、磁界の乱れをとらえて製品に混入した金属性異物を検出する装置

Q,なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

当社のBCPは、これまでは災害時の備蓄が中心でした。しかし昨年の大きな台風で、当社工場も半日以上停電し、お客様にご迷惑をかけてしまった事が本格的なBCP策定のきっかけとなりました。当社は従業員数が120名ほどの会社ですが、北海道から九州まで広範に拠点を持っていますので、以前からBCP対策について何らかの対応が必要だと考えていました。そんな中、当社の社長が東京都中小企業振興公社のBCP支援サイトを見つけてきたのが、きっかけだったと言えます。特にBCPは、会社全体で取り組まないと意味がありませんが、やはり企業トップの考え方が重要です。今回は当初から明確なトップダウンで展開できたので、やり易かったですね。その後のスムーズな展開に繋がっていると思っています。

Q,策定したBCPの概要を教えてください。

先ず第一に、社員の安全安心を守るという事。第二に、お取引先様に対しての供給責任を果たす事。第三に、自社の事業継続の体制を作る事。今回はこれらを基本方針として、BCPの策定に着手しました。BCPの担当者は、私と総務人事課長の2名です。具体的に取り組んだのは、当社の八王子工場と東京本社の2箇所。事業継続が目的ですから、具体的には工場が中心ですが、特に八王子工場に関しては、「30日以内に生産機能の50%回復」を目標として、災害時の具体的な復旧計画を立てています。想定する災害は自然災害、地震、台風、集中豪雨、火災などです。従業員が工場内に居た場合に、どうやって従業員の安全を守るかという点を中心に検討を進めました。また、お客様に対しての供給責任については、当社だけでは立ち行かないので、今後は仕入先様に対してのフォローも必要になってきます。

八王子工場外観

Q,BCP策定過程で苦労したことは何ですか?

今回のBCP策定は、本当にゼロから始めましたので、当初は実際どこから始めたら良いのか分からなかったというのが正直なところです。先ず思いつくのは備蓄品などモノに集中しがちなのですが、策定を進めていくとそれでは全く不十分な事が分かってきます。具体的には、緊急時でも直感的に理解できる分かりやすい文書をつくることや、全ての従業員にBCPの必要性や意味を理解してもらうために、具体的な周知徹底の方法を検討していくのが予想以上に難しかったですね。

Q,日常業務でBCPを策定した効果はありますか?

当社の経営陣が集まり、丸一日かけて自社の状況を踏まえたBCPの策定に取り組みました。これらのプロセスを踏む事で、経営陣全員が、BCPの必要性や意義を充分理解する事ができたと感じています。それ以外にも全社的な効果でいえば、例えばBCP策定の過程で、自社の業務の棚卸しをする必要があり、改めて現状の業務の流れを見直す良い機会が得られた事です。またこれをきっかけとして、仕入先様の重要性も再認識する事ができたのではないかと考えています。

Q,公社の支援に対するご感想は?

社長と私が、公社主催のBCP策定講座に行ったのがきっかけでしたが、実際のところこの時点では何から着手していいのか見当も付かず、正に暗中模索の状態でした。しかし具体的なBCPの策定手順の指導を受ける中で、一つずつステップを踏んで実践し、理解しながら先に進める方法は、私達経営者にとっても新鮮な驚きがありました。BCPの考え方や意義を深く理解する事ができた事は、非常に意義のある体験だったと思っています。

Q,BCPを今後御社の企業経営にどう生かしたいですか?

今回、BCPの策定に取り組む事で、社内外に大きな変化があったと感じています。先ず社内的には、従業員の方々に安心感を持ってもらいたいと思っています。災害時でも、会社がサポートしてくれると感じることは、会社への信頼感に直結するものだと思います。社外に対しては、当社の仕入先様にも、BCPの考え方を理解していただく事で、お客様への供給責任の一翼を担っている事を認識していただけると考えています。実は、年初の賀詞交換会でも、当社のBCPへの取り組みを、仕入先様にご紹介させていただき、関心を持ってお聞きいただいたと感じています。とはいえ、仕入先様に今すぐ導入していただく事はお客様の事情もありますので、まずは、今回当社が策定を通じて獲得したノウハウを浸透させていただきたいし、少しでも導入の負担を軽減できるよう、働きかけさせていただきたいと思います。今後の課題としては、策定したBCPの横展開ですね。

(了)