株式会社協和精機 経営統括部取締役部長 立松和也氏

Q,会社の概要を教えてください。

1971年に創業し、埼玉県川越市に拠点を置く金属加工業です。空気圧、油圧機器、医療関係、自動車部品などの幅広い業界へアルミニウムや銅、ステンレス、鉄系の部品を提供しています。例えば電車のドアは空気圧縮制御で開閉しますが、その中の空気圧縮バルブなども生産しています。

Q,なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

現在の会社は私の叔父が社長、父親が専務で、私は2年前まで大手の電子機器や情報機器を扱うメーカーで営業を担当していました。今は30歳ですが、20代の半ばに「中小企業のモノづくり」について大変興味がわき、現在の稼業を継承することを決意して協和精機に入社したのです。そのような状況の中で中小企業振興公社のBCPセミナーを受講するうちに「万が一、自分が死んだ後も継続する会社を作れるようになりたい」と考え、本格的にBCP策定を考えるようになりました。

もう1つのポイントは、取引先からの要請です。東日本大震災の時に、とある愛知県の取引先である部品メーカーが福島の企業から材料を仕入れていて、震災の影響でその供給がストップしてしまいました。そのため当社に代替生産について要請があり、協力した経験があります。ただ、現在は首都直下地震の可能性が高まっており、震災が発生すれば今度は当社の生産もおぼつかなくなるかもしれません。東日本大震災以降、多くの顧客からBCPの策定を求められていました。

工場内にある最新型の切削作業機

Q,策定したBCPの概要を教えてください

震度5強以上の地震を想定し、まずは事業を7日以内に復旧させ、外製先とも協力し、契約の大きい取引先から優先して製品供給ができる体制を目指しています。ただ、昨年半年かけてBCPを策定したところですので、具体的な取り組みは始まったばかりです。

まず手始めに、事務所を今年2月にリニューアルしました。以前は非常に乱雑な事務所だったのですが、BCPの観点から整理整頓を進め、なるべく什器類は低いものを揃え、背の高い什器や複合機には耐震固定を施しました。AEDを設置しようという話もあり、最初は本当にできるのか不安でしたが、総務の社員が自動販売機にAEDがついているものを見つけてきてくれ、今後、同じタイプのものを設置予定です。また、非常時の連絡網も整備したところですが、これは先日の大雪の時の社員への連絡に役立ちました。このように、今1つひとつ課題を皆で知恵を出し合って解決しているところです。

当社のBCPにおける特徴的なものの1つに、代行者の養成があります。震災が発生し、出社できない従業員が出ても生産が途切れないように、ノウハウを1人にとどめておかずに常に2-3人は業務を代行できる人材を用意しておきたいと考えています。もう1つは、自社社員による機械のメンテナンスです。地震で機械が壊れてしまったら、機械メーカーの方々も多忙になり当社に修理に来るのはとても遅くなることが予想されます。そのため、メンテナンス会社などに教育をお願いし、ある程度の修理は自分たちでもできるような体制を整えたいと考えています。

リニューアルしたばかりの真新しいオフィス。蛍光灯は全てLEDに入れ替えた。

工場内の機械にもアンカーで地震対策を施した

Q,策定過程で苦労した点はありますか?

中小企業振興公社のセミナーを受けるまで、「BCPは単なる防災対策ではない」ということも知らなかったくらいなので、まずBCPの概念を理解するところが大変でした。作業は本当に手探りで、緊急連絡網も、今回1から作りました。ただ、皆で知恵を出し合うのはとても楽しい作業でした。

Q,BCPを策定したことにより、日常の経営面でも何か効果はありましたか?

BCPを策定することによって、まず自分の経営に対する覚悟が変わったと思います。自分に万が一のことがあっても事業が途切れないようにするにはどうすればいいのか、地震や火災で会社が被災したときにも復旧するには何をすべきなのか。BCPを策定するまで考えたことがなかった。BCPは事業継承にも非常に役立つと考えています。

Q,公社から支援を受けた感想はいかがでしょうか?

BCPセミナーの後にも、様々なセミナーを受けさせていただいています。もともとは取引先の銀行に紹介されてセミナーに行くようになりましたが、行ってみて本当に役に立つし、使わないほうがもったいないと思います。東京都は莫大な中小企業支援のための予算を持っていますので、これからも活用させていただきたいと思います。

Q,今後、BCPをどのように企業経営に生かしたいと思いますか?

「今後は社員一人ひとりにBCPの意識を持ってもらいたい」(立松氏)

策定する前は、地震が発生したらすべての判断を役員に任せる状態だったのですが、BCPを策定することにより、全社員で役割分担することができ、改めて重要性を実感しました。今後は社員一人ひとりに、BCPの意識を持ってもらいたいと思います。また、BCPは現在、顧客に対してとても良いPRになりますので、ホームページなどでどんどんPRしていきたいと考えています。

(了)

コンサルタント/AEDインストラクター

ニュートン・コンサルティング株式会社
コンサルタント 花井香奈子

各部門のリーダーの方々が毎回積極的な議論を展開され、全員で作りあげたBCPとなりました。社員、地域、顧客や委託先等すべての関係者のため、会社をさらに良くしていきたいという強いリーダーシップのもと、さらなる会社の成長へ向けた前向きなBCP策定に立ち会うことができました。