株式会社明昌堂 制作部 デザイン制作課 鈴木由之氏

Q,会社の概要を教えてください。

弊社は1971年に手動写植業として設立し、その後電算写植を経て、現在はDTP制作を専門に携わっています。書籍・教科書・学習教材を中心に年間4000点のDTPおよびデザイン製作に携わっております。顧客先は規模を問わず大手から中小まで出版社と印刷所を中心に200社。社員は現在83名。1992年に新潟支社を設立。以来現在まで東京本社と新潟支社の2拠点で業務を行っています。

Q,なぜBCPに取り組もうと思ったのですか?

お客様から製作データのバックアップ体制について問い合わせをもらうようになったことが大きなきっかけでした。それまでは東京本社と新潟支社にそれぞれ独立のサーバがあり、各拠点で1日一回バックアップを取る体制でした。考えてみればどちらかのサーバおよびバックアップサーバに万一不具合が起きれば、それだけでデータを失ってしまう状況でした。でも2拠点分のサーバを新設するには数千万規模の投資が必要となります。お客様から問われたときに自信をもって答えられる体制を整えたいという思いがありました。そんな時にBCP支援事業として、経営の見直しや設備投資の支援してもらえる中小企業公社のプログラムがあることを知り、参加を決めました。

Q,策定したBCPの概要を教えてください。

想定しているのは首都直下型地震。これにより本社機能の停止が起こる状況を3日以内に通常業務に100%復旧することを目標にBCPを策定しました。まずはサーバ設備に投資して、データのバックアップ体制を確立すること。年間4000冊ずつ増えていく校了後の在版データはこれまで東京・新潟のいずれか責任者が在籍する方の拠点のサーバに保存していました。これを2拠点の在版データを1日1回同期をとり、双方のサーバで常に全社分の在版データを保存するようにしました。あわせて新たにクラウドサーバを運用サーバとして新設し、製作中データはすべてこちらで保存する。どの拠点からでもクラウドを参照すればいつでも最新の編集データを参照できるようになりました。

弊社根幹であるDTP業務に必要不可欠な資源は、原稿、パソコン(Macintosh)、そして制作データ。この3つがあれば、どこでも作業を再開できる。パソコンは買い替えで、制作データはクラウドで復旧できるのですが、紙の原稿は運行している駅から新幹線で新潟支社に持っていく。もし新幹線も停止していれば社用車で輸送する、という計画を立てています。

画像を確認 新たに増設したサーバ(棚上段から2番目)。東京・新潟の2拠点で1日1回同期をとり、双方サーバで全社一括の在版データを保存する体制に切り替えた

Q,策定過程で苦労した点はありますか?

最初は、想定する災害に限りがなく、どこまで想定して計画を作っていけばよいのか、ということが難しいところでした。ここは最初に自分たちが守らなければいけない必要最小限の業務・資源・顧客は何か、いつまでにどれだけ復旧するべきか。弊社では、今回改めて考えることで社員の意識を統一できるようになりました。

弊社では以前から安全衛生委員会があり、「災害対策マニュアル」の作成や防災訓練などを積極的に活動をしていました。でも今考えてみると、それは机上の初動対応に過ぎず、現実的な事業継続計画にはなっていませんでした。例えば、怪我人が出た際に緊急搬送する病院も、安易に最寄りの病院を選定していました。しかし考えてみれば大規模災害時に本当にここで大丈夫なのか。一方で、しっかり備えがある大規模病院でも、遠くまで搬送できるのか、十分に検討していませんでした。また緊急時の責任者を決める際も、適任者を考えていくと一人の負担が大きすぎて現実的に対応できない災害対策になっていました。結構落ち度があることが分かり、対策を練り直しました。

Q普段やっていたことでBCPに役立ったと思うことは

東京本社が機能停止状態になったときに、新潟支社に業務を移管するというのが今回のBCPの趣旨ですが、実は以前から新潟支社と東京本社がお互いの業務を把握する体制は持っていました。1つは東京・新潟の制作業務の進捗を共有するデータベース。10年ほど前から業務効率化のために導入しています。もう1つは2017年4月から導入した、常時接続のテレビ会議システム。東京・新潟のオフィスを70インチの大型モニターとWebカメラでつなぎ、ワンフロアで作業しているような環境をつくっています。これによって2拠点双方が互いの作業内容を共有できる体制が整っていました。日頃やっていたことがBCPにもとても生きました。

年間4000点の製作工程進捗を全社共有できるデータベースシステム

東京本社と新潟支社を常時接続するテレビ会議システム

Q,BCPを策定したことにより、日常の経営面でも何か効果はありましたか?

BCP策定するきっかけでもありますが、お客さんに対して自信をもって「自社ではこのような取り組みをしております」という明確な説明ができるようになったこと。これによってこれまでにない受注につながるようになったことは大きな変化です。

営業に関しては、早速BCPに関する営業用チラシを作成中。今後は1000ページ規模のカタログや、シリーズ商品をより多く製作していきたい。それが弊社にとっては社会貢献になると考えております。そのために万全の準備ができていますということをお客様にアピールしていきたいです。

改めて実感したことは、BCPの考え方が最近話題になっている働き方改革にも大きな効果があるということ。誰が休暇をとってもきちんとほかの社員が仕事を引き継げる体制は、災害時に限らず通常業務でも社員にとっても大きなメリットがあることがわかりました。

Q公社の支援に対するご感想

公社さんでBCP策定の支援をしてもらえるとのことで、セミナーがあり、そちらに参加するなかで、ニュートンコンサルティングというコンサルティング会社に支援を頂きました。ゼロからこと細かに教えていただき、BCPを形にすることができました。またBCPの要となるサーバ新設に対して、今回公社さんを通じて補助金申請をさせてもらい、無事に適用を受けることができ、大変感謝しています。

ニュートン・コンサルティング株式会社
コンサルタント 北川 信夫

櫻井社長自ら主導し、社内衛生委員会の全メンバーで構成された本プロジェクト。
既存の「災害発生時の対応マニュアル」の見直しを含めてとことん実効性を追求したBCPの策定は、コンサルタントという立場を超えて大変有意義且つ学びの場となりました。